子会社管理とグループガバナンスの監査ポイント|親会社内部監査部門の進め方

M&A や事業の分社化によって子会社が増えると、親会社の目が届かないところで問題が起きるリスクも高まります。子会社での不正や法令違反、会計処理の誤りは、連結財務諸表を通じてグループ全体の業績や信用に直接影響します。一方で、子会社にはそれぞれ独自の経営陣と業務があり、親会社がどこまで関与すべきかの線引きは簡単ではありません。本記事では、親会社の内部監査部門の担当者や責任者に向けて、子会社管理とグループガバナンスの考え方、子会社管理の仕組みを監査する際のポイント、子会社のリスク評価と監査手法の選び方を、チェックリストとあわせて整理します。

グループガバナンスと子会社管理の基本

企業集団の内部統制

会社法では、大会社や指名委員会等設置会社などの取締役会に対し、「業務の適正を確保するための体制」の整備について決定することが求められています。会社法施行規則では、その体制の一つとして、当該株式会社と子会社から成る企業集団における業務の適正を確保するための体制が挙げられており、子会社の取締役等の職務執行に係る事項の親会社への報告体制、子会社の損失の危険の管理に関する規程その他の体制などが例示されています。つまり、子会社管理は親会社の取締役会が責任を負う内部統制の一部として位置づけられています。

また、内部統制報告制度(J-SOX)においても、財務報告に係る内部統制の評価は連結ベースで行われるため、重要な子会社は評価範囲に含まれます。2024年の改訂では、評価範囲の決定にあたり数値基準を機械的に適用せず、質的な重要性を考慮することが明記されました。数値基準では評価範囲外となる小規模な子会社でも、リスクによっては対応が必要になる点に留意が必要です。

グループ・ガバナンス・システムに関する実務指針

経済産業省は2019年に「グループ・ガバナンス・システムに関する実務指針(グループガイドライン)」を策定し、グループ経営における事業ポートフォリオの管理、内部統制システムの構築・運用、子会社経営陣の指名・報酬などについて考え方を示しています。内部統制システムについては、3線モデルの考え方を参考に、事業部門、管理部門、内部監査部門の役割を明確にすることや、親会社の内部監査部門が子会社の内部監査部門と連携してグループ全体を監査する体制を整えることの重要性などが示されています。自社のグループ管理の方針を検討する際の参考になります。

子会社管理の体制とガバナンスモデル

親会社が子会社をどのように管理するかは、グループの戦略や子会社の位置づけによって異なります。代表的な管理の考え方を整理すると、次のようになります。

管理の考え方 概要 親会社の関与 内部監査上の主な着眼点
集権型 重要な意思決定や管理業務を親会社に集約する 大きい。経理・人事・システムなどを親会社が一元的に提供することもある 親会社の統制が子会社の実態に合っているか、子会社側で統制の空白が生じていないか
分権型 子会社の経営陣に大きな裁量を委ね、結果で評価する 小さい。重要事項の承認と業績のモニタリングが中心 子会社の自律的な内部統制が有効か、親会社への報告が適時・正確か
中間型 事業面は子会社に委ね、財務・コンプライアンスなどは親会社のルールを適用する 領域によって異なる 親会社と子会社の役割分担が明確か、ルールが子会社で実際に運用されているか

どの考え方が正しいというものではありませんが、内部監査部門としては、親会社が定めた管理の方針と、実際の運用が一致しているかを確認することが重要です。例えば、方針上は分権型としながら、子会社の内部統制の整備状況を親会社が把握していない場合、それは「自律に委ねている」のではなく「管理していない」状態に近いといえます。

子会社管理の仕組みで確認すべきポイント

親会社の内部監査部門が子会社管理を監査する際は、個々の子会社の業務だけでなく、親会社側の管理の仕組みそのものも対象にします。主な確認ポイントは次のとおりです。

子会社管理規程と承認・報告ルール

子会社管理規程(関係会社管理規程)で、親会社の承認を要する事項(事前承認事項)と、報告を要する事項(報告事項)が明確に定められているかを確認します。例えば、一定額以上の投資や借入、重要な契約の締結、役員の選任、規程の制定・改廃などを事前承認事項とし、月次の業績、重要な事故やクレーム、訴訟の発生などを報告事項とするのが一般的です。規程が存在していても、承認基準の金額が子会社の規模に見合っていない、報告の期限や方法が定められていない、といった問題がないかを確認します。

所管部門の役割

子会社ごとに親会社側の所管部門(主管部門)が定められ、その役割が明確になっているかを確認します。所管部門が事業部門なのか、経営企画部門なのかによって、管理の視点が異なります。所管部門が業績の管理だけを行い、内部統制やコンプライアンスの状況を誰も把握していないといった状態は、よく見られる課題の一つです。

子会社の機関設計と役員派遣

親会社から子会社へ取締役や監査役を派遣している場合、派遣された役員が親会社にどのように報告しているか、子会社の取締役会が実質的に機能しているかを確認します。特に子会社の監査役は、親会社の内部監査部門にとって重要な情報源であり、連携の仕組みがあるかも確認ポイントです。

買収した子会社の統合プロセス

M&A で取得した子会社は、買収前の独自のルールやシステムで運営されていることが多く、親会社のグループ方針や管理規程をどのように適用していくかが課題になります。買収後の統合プロセス(PMI)の中で、承認・報告ルールの適用時期、会計方針の統一、内部通報制度の導入、J-SOX の評価範囲への組入れなどが計画され、実行されているかを確認します。統合計画が事業面に偏り、内部統制の整備が後回しになっていないかは、内部監査部門が早い段階で確認しておきたいポイントです。

親会社と子会社の管理体制と内部監査の関わりを示した図
親会社と子会社の管理体制と内部監査の関わりを示した図

子会社のリスク評価と監査の優先順位

子会社の数が多い場合、すべての子会社を毎年同じ深度で監査することは現実的ではありません。リスク評価に基づいて監査の優先順位と頻度を決めることが必要です。

子会社のリスク評価では、次のような観点を組み合わせます。

  • 規模:売上高、総資産、従業員数など、連結財務諸表への影響の大きさ
  • 事業の性質:現金取引の多さ、許認可や規制の有無、見積りを伴う会計処理の有無
  • 統制環境:管理部門の人員体制、経理担当者の経験、内部監査部門や監査役の有無
  • 変化:新規設立や買収からの経過期間、経営陣や主要な担当者の交代、基幹システムの変更
  • 過去の状況:過去の監査での指摘事項の件数と重要性、改善状況、内部通報の状況
  • 地理的要因:海外子会社の場合の法規制や商慣習の違い、親会社からの距離

評価結果に応じて、例えば高リスクの子会社は毎年の往査、中リスクは数年に一度の往査と書面による監査の組み合わせ、低リスクは自己点検と書面監査を中心にする、といった形で監査の頻度と方法を決めます。買収直後の子会社は、統制環境が親会社の水準に達していないことが多いため、規模にかかわらず早い段階で監査を実施することを検討します。

リスク評価は、観点ごとに3段階程度で点数をつけて合計する方法が分かりやすく、年度ごとの比較もしやすくなります。ただし、点数の合計だけで機械的に優先順位を決めるのではなく、点数には表れにくい情報(所管部門や子会社の監査役から聞いた懸念、経営陣の姿勢など)も加味して最終的に判断します。評価の根拠を記録しておけば、取締役会や監査役等に監査計画を説明する際の資料としても活用できます。

リスク評価表の例

リスク評価表は、例えば次のような形式で作成します。点数は「1:低い」「2:中程度」「3:高い」の3段階とし、合計点と定性的な情報を踏まえて総合評価を決めます。

評価の観点 評価の目安(3点の例) 子会社A 子会社B 子会社C
規模 連結売上高や総資産に占める割合が大きい 3 1 2
事業の性質 現金取引が多い、規制業種である、重要な見積りがある 2 3 1
統制環境 管理部門が少人数で兼務が多い、監査役や内部監査部門がない 1 3 2
変化 買収・設立から間もない、経営陣や基幹システムの変更がある 1 3 1
過去の状況 未是正の重要な指摘事項がある、内部通報が寄せられている 2 2 1
地理的要因 海外に所在し、親会社からの距離や法規制の違いが大きい 1 3 1
合計点/総合評価 定性的な情報も加味して決定 10/中 15/高 8/低

上の表の子会社Bのように、規模は小さくても統制環境や変化の観点で点数が高い子会社は、数値基準だけでは見落とされやすい一方、不正や誤りが起こりやすい状況にあります。規模の点数に重みを付けすぎないよう、観点ごとの配点のバランスにも注意しましょう。

子会社監査の手法の選び方

子会社監査には、いくつかの手法があります。それぞれ長所と短所があるため、リスクの程度や子会社の状況に応じて組み合わせます。

往査

内部監査人が子会社を訪問し、ヒアリング、証憑の確認、現物の確認などを行う方法です。現場の雰囲気や業務の実態を直接確認できるため、最も深度のある監査が可能です。一方で、移動の時間や費用がかかり、監査できる子会社の数が限られます。

リモート監査・書面監査

資料をデータで受け取り、オンライン会議でヒアリングを行う方法です。移動の負担がなく、より多くの子会社をカバーできます。ただし、現物の確認や現場の観察ができないため、リスクの高い領域では往査と組み合わせる必要があります。

自己点検(CSA)

子会社自身がチェックリストに基づいて内部統制の状況を点検し、その結果を親会社に報告する方法です。多くの子会社の状況を広く把握でき、子会社の担当者の意識向上にもつながります。一方で、自己評価であるため客観性に限界があり、内部監査部門が回答の妥当性を一部検証する仕組みが必要です。

データ分析による継続的モニタリング

子会社の会計データや購買データを親会社で集約し、異常な取引を定期的に抽出する方法です。グループで会計システムを統一している場合は特に有効で、往査の前に分析を行えば、重点的に確認すべき取引を絞り込めます。

どの手法を選ぶ場合でも、子会社に対しては監査の目的、対象期間、依頼する資料、スケジュールを事前に通知し、監査の趣旨を理解してもらうことが大切です。子会社の担当者にとって、親会社の監査は「管理される」負担と受け止められがちです。監査の結果を子会社の経営陣にも報告し、改善の支援につなげる姿勢を示すことで、以後の情報提供や改善への協力が得られやすくなります。

海外子会社の監査では、言語や法規制、商慣習の違いへの対応も必要になります。詳しくは「海外子会社監査の進め方」で解説しています。

子会社往査の進め方の例

リスク評価で往査の対象とした子会社について、準備から報告までの進め方の例を示します。子会社の規模や監査範囲によって期間は変わりますが、段階ごとの作業を事前に共有しておくと、子会社側も準備を進めやすくなります。

段階 時期の目安 主な作業
予備調査 往査の1〜2か月前 所管部門・子会社の監査役へのヒアリング、前回の指摘事項の確認、会計データの分析
監査通知 往査の1か月前 監査の目的・範囲・日程・依頼資料の一覧を子会社の経営陣に通知
資料の受領と事前確認 往査の2週間前 規程類、組織図、業務フロー、取引明細の受領と、質問事項の整理
往査 数日程度 経営陣・担当者へのヒアリング、証憑と現物の確認、統制の運用状況の検証
講評 往査の最終日 発見事項の速報を子会社の経営陣に説明し、事実関係を確認
報告と改善計画 往査の後1か月程度 監査報告書の作成、子会社による改善計画の受領、親会社経営陣への報告
フォローアップ 改善期限の到来時 改善状況の確認と、必要に応じた追加の検証

予備調査で会計データを分析しておくと、往査の限られた日数を、重点的に確認すべき取引や業務に充てることができます。例えば、決算月に集中した売上、特定の取引先への支払の急増、担当者と承認者が同じ仕訳などを事前に抽出し、往査時に証憑を確認する対象として選んでおく方法です。講評の場では、発見事項を事実として確認することに重点を置き、評価や改善策の議論は報告書の段階で行うと、子会社側の受け止めもスムーズになります。

よくある指摘事項と改善の方向性

子会社監査では、次のような事項がしばしば問題になります。自社グループで同様の状況がないか、確認の観点として活用してください。

よくある指摘事項 背景にある原因 改善の方向性
親会社の事前承認を得ずに重要な契約を締結している 承認事項の範囲が子会社の担当者に理解されていない 事前承認事項の一覧を具体例とともに周知し、契約締結前の確認手順を定める
経理担当者1名が記帳から支払まで担当している 少人数の組織で職務の分離が難しい 支払の承認を別の役職者が行う、親会社がネットバンキングの承認を行うなどの代替的な統制を設ける
子会社独自の規程が親会社の改定に追随していない 規程改定時の子会社への展開ルールがない 親会社の規程改定時に、子会社への展開と改定期限を所管部門が管理する
重要な事故やクレームの報告が遅れる 報告の基準と期限があいまいである 報告事項の基準と期限を具体的に定め、報告しなかった場合の扱いも明確にする

これらの指摘事項は、個々の子会社の問題にとどまらず、他の子会社でも同じ原因で発生している可能性があります。複数の子会社で同様の指摘が続く場合は、親会社の管理の仕組みそのものの課題として、子会社管理規程の見直しや所管部門の役割の明確化を提言することを検討しましょう。

子会社監査のチェックリスト

子会社監査や、親会社の子会社管理の仕組みを監査する際に使えるチェックリストです。自社の状況に合わせて項目を追加・修正してご活用ください。

親会社の管理体制

  • 子会社管理規程で、事前承認事項と報告事項が明確に定められているか
  • 子会社ごとに所管部門が定められ、業績だけでなく内部統制・コンプライアンスの状況も把握しているか
  • 子会社のリスク評価を定期的に実施し、監査計画に反映しているか
  • 子会社で発生した重要な事故・不正・訴訟などが、親会社に適時に報告される仕組みがあるか

子会社の統制環境

  • 子会社の取締役会が定期的に開催され、重要事項が審議されているか
  • 職務分掌が定められ、少人数の組織でも承認と実行が分離されているか、分離できない場合に代替的な統制があるか
  • 親会社のグループ方針(行動規範、コンプライアンス方針など)が子会社に周知されているか
  • グループの内部通報制度が子会社の従業員にも利用可能で、周知されているか

子会社の業務プロセス

  • 販売、購買、経費、資金管理などの主要な業務で、承認のルールが定められ運用されているか
  • 銀行口座の開設・印鑑や電子決済の権限が適切に管理されているか
  • 会計処理が親会社のグループ会計方針に沿って行われているか
  • 親会社との取引や子会社間の取引の条件が適切に定められ、記録されているか

子会社の監査役・内部監査部門との連携

子会社監査を効率的に行うには、子会社の監査役や、子会社に内部監査部門がある場合はその部門との連携が欠かせません。監査計画を共有して監査の重複を避ける、監査結果や指摘事項を相互に共有する、グループ共通の監査手続書やチェックリストを使って監査の品質をそろえる、といった取り組みが考えられます。

また、親会社の監査役等や会計監査人との連携も重要です。会計監査人は連結財務諸表の監査の過程で子会社の状況を把握しており、監査役等は取締役の職務執行の監査として子会社管理の状況に関心を持っています。三者が子会社に関する情報を共有することで、限られた資源でグループ全体をより広くカバーできます。三様監査の連携については「三様監査の連携の進め方」も参考にしてください。

まとめ

子会社管理は、会社法上の企業集団の内部統制として親会社の取締役会が責任を負う領域であり、内部監査部門には、親会社の管理の仕組みと子会社の実際の運用の両面を評価する役割が求められます。子会社管理規程と承認・報告ルール、所管部門の役割、役員派遣の実態を確認したうえで、規模・事業の性質・統制環境・変化などの観点から子会社のリスクを評価し、往査、リモート監査、自己点検、データ分析を組み合わせて監査の優先順位と方法を決めることが基本になります。リスク評価表で評価の根拠を記録し、往査では予備調査での分析結果を活用して重点を絞り込みます。複数の子会社で同じ指摘が続く場合は、親会社の管理の仕組みの課題として提言することも内部監査部門の重要な役割です。まずはチェックリストを使って自社グループの管理体制を点検し、リスクの高い子会社から監査の深度を高めていきましょう。

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