監査調書は、内部監査で実施した手続、入手した証拠、そこから導いた結論を記録する文書です。監査報告書の裏付けとなるだけでなく、監査の品質を示す根拠にもなります。しかし実務では、「担当者によって書き方がばらばら」「結論に至った理由が読み取れない」「レビューが形式的になっている」といった課題がよく聞かれます。本記事では、内部監査部門の担当者と、調書をレビューする立場の管理者に向けて、監査調書の役割と記載項目、書き方のポイント、品質を保つレビュー手順、保管のルールを整理し、そのまま使える調書テンプレートとレビューチェックリストを紹介します。
監査調書の役割
監査調書には、主に次のような役割があります。
- 結論の裏付け: 監査報告書に記載した発見事項や意見が、十分かつ適切な証拠に基づいていることを示す
- 品質管理の基盤: 上長や品質管理の担当者が、手続の妥当性や結論の適切性をレビューするための材料になる
- 引継ぎと継続性: 担当者が交代しても、翌年度以降の監査で前回の手続や判断を参照できる
- 外部との連携: 監査役等や外部監査人との連携(いわゆる三様監査)や、内部監査の外部品質評価の際に、監査の実施状況を説明する資料になる
グローバル内部監査基準(GIAS)でも、内部監査人は業務の実施内容や結論を裏付ける情報を文書化することが求められています。基準の全体像については「グローバル内部監査基準(GIAS)の概要」も参考にしてください。
調書は「自分が分かればよい」メモではなく、「経験のある第三者が読んで、何を行い、何を根拠に、どのような結論に至ったかを理解できる」文書であることが基本的な考え方です。
内部監査の一部を外部に委託している場合や、コソーシングで外部の専門家と共同で監査を行う場合も、調書の考え方は変わりません。委託先が作成した調書についても、自社の様式や記載基準に沿っているか、レビューの記録が残っているかを確認し、最終的な結論に対する責任は内部監査部門が負うという前提で管理します。
監査調書の種類と構成
監査調書は、監査の段階に応じていくつかの種類に分けて整理するのが一般的です。
| 区分 | 主な調書 | 記載・添付する内容 |
|---|---|---|
| 計画段階 | 監査計画書、リスク評価表、監査プログラム | 監査の目的・範囲、重点リスク、実施する手続、担当者と日程 |
| 実施段階 | 手続実施調書、ヒアリング記録、テスト調書、分析調書 | 実施した手続、対象(サンプル)、確認結果、入手した証拠 |
| 結論段階 | 発見事項一覧、結論要約書 | 発見事項の内容、根拠となる調書の参照、重要度の評価 |
| 報告・事後段階 | 報告書ドラフトと最終版、被監査部署との協議記録、改善計画 | 報告内容の変更経緯、改善計画、フォローアップの方針 |
これらを一つのフォルダ(または監査管理システム上の案件)にまとめ、索引番号で相互に参照できるようにしておくと、レビューや後日の確認が格段に楽になります。たとえば計画段階は「A」、実施段階は「B」、結論段階は「C」といった体系で番号を振り、調書どうしの関係を明確にします。
監査調書に記載すべき項目
個々の調書には、少なくとも次の項目を記載します。
基本情報
- 監査名、対象部署、対象期間
- 調書番号(索引番号)とタイトル
- 作成者と作成日、レビュー者とレビュー日
目的と手続
- その調書で何を確かめるのか(監査プログラムの手続番号と、検証するリスクや統制)
- 実施した手続の内容(閲覧、質問、観察、再計算、再実施、分析など)
- 対象とした母集団とサンプルの抽出方法、サンプル数
結果と結論
- 手続の結果(例外の有無と内容)
- 入手した証拠の名称と保存場所(添付番号)
- 結論(統制が有効か、発見事項があるか)と、その理由
特に重要なのが「目的」と「結論」の対応です。目的が書かれていないと、何を確かめるための手続だったのかが分からず、結論の妥当性も判断できません。逆に、手続の結果だけが並び結論がない調書も、レビューで差し戻される典型例です。

書き方のポイント
事実・判断・結論を区別する
調書では、確認した「事実」、それに対する監査人の「判断」、最終的な「結論」を区別して書きます。たとえば「承認印がない申請書が 25 件中 2 件あった」は事実、「承認手続が徹底されていない可能性がある」は判断、「承認統制に不備があると判断する」は結論です。これらが混在すると、読み手はどこまでが確認済みの事実なのかを判断できません。
第三者が再現できる程度に具体的に書く
「関連資料を確認した」ではなく、「2025 年度の購買申請一覧(添付 B-3-1)から無作為に 25 件を抽出し、申請書の承認欄と権限規程の承認者を照合した」のように、何を、どれだけ、どのように確認したかを具体的に書きます。目安は、同じ資料を渡された別の監査人が同じ手続を再現できるかどうかです。
証拠との相互参照を付ける
調書本文の記載と、添付した証拠(画面の写し、帳票の写し、データの抽出結果など)には、相互に参照できる番号を付けます。証拠には、どの部分を確認したのかが分かるよう、該当箇所に印を付けたり、確認記号(ティックマーク)とその凡例を記載したりすると、レビューが効率的になります。
例外や判断の経緯を省略しない
テストで例外が見つかった場合、それが不備なのか、合理的な理由のある例外なのかを判断した経緯を記録します。被監査部署からの説明内容、追加で確認した資料、最終的な判断理由を残しておかないと、後から結論の妥当性を説明できなくなります。
書式と表現をそろえる
調書の読みやすさは、書式の統一によっても大きく変わります。日付の表記、金額の単位、社内用語や略語の使い方、ティックマークの凡例などを部門内で統一しておくと、レビュー者は内容の確認に集中できます。略語を使う場合は、調書の冒頭や部門共通の用語集で意味を定義しておきます。また、一文を短くし、主語を明確にすることも大切です。「確認した」「問題なし」といった表現だけで終わらせず、誰が、何に対して、どのような基準で確認したのかが分かる文章を心がけます。
分析データを調書に残すときの注意点
データ分析を用いた手続では、分析に使ったデータの入手元、抽出条件、抽出日時、件数や合計金額などの突合結果を記録します。分析の途中経過をすべて残す必要はありませんが、同じデータから同じ結果を再現できるだけの情報は必要です。スクリプトや分析手順書を用いた場合は、そのバージョンも記録しておくとよいでしょう。
ヒアリング記録の書き方
ヒアリング記録は、手続の中でも記載の質に差が出やすい調書です。実施日時と場所、面談者と同席者の氏名・役職、聞き取りの目的を冒頭に記載し、本文には質問と回答の要旨を記録します。回答者の発言と監査人の理解・評価は分けて書き、発言内容を裏付ける資料を入手した場合はその添付番号を付けます。「担当者によれば〜とのこと」で終わる記載は、質問だけで統制の有効性を結論付けているように読めてしまうため、閲覧や観察など他の手続で裏付けた結果もあわせて記録します。重要な事実関係については、記録の内容を面談者に確認してもらうと、後日の認識の相違を防げます。ヒアリングの進め方は「往査・ヒアリングの進め方」も参考にしてください。
記載例:改善前と改善後
よく見られる記載と、改善後の記載例を比較します。
| 項目 | 改善前の記載 | 改善後の記載 |
|---|---|---|
| 目的 | 購買の承認を確認する | 購買申請が権限規程の承認者・承認限度額に従って承認されていることを確かめる(手続 3、リスク R-2) |
| 手続 | 申請書を確認した | 購買申請データ(添付 B-3-1)から無作為に 25 件を抽出し、承認欄の承認者と権限規程の承認限度額を照合した |
| 結果 | 一部に不備あり | 25 件中 2 件で、承認限度額を超える申請が課長承認のみで処理されていた(添付 B-3-3 の No.7、No.18) |
| 結論 | 要改善 | 承認限度額の超過を検知する仕組みがなく、承認統制の運用に不備があると判断する(発見事項 C-1-2) |
改善後の記載は長くなりますが、レビュー者が添付資料を開かなくても手続と結論の関係を把握でき、差し戻しの往復が減ります。
監査調書テンプレート
手続実施調書の基本的なテンプレート例です。自部門の様式に合わせて項目を調整してご活用ください。
- 調書番号 / タイトル: B-3 購買承認統制の運用テスト
- 監査名 / 対象部署 / 対象期間: 購買業務監査 / 購買部 / 2025年4月〜2026年3月
- 目的: 購買申請が権限規程に定める承認者により承認されていることを確かめる(監査プログラム手続 3、リスク R-2:権限のない発注)
- 母集団: 対象期間の購買申請データ(件数と入手元システムを記載)
- サンプル抽出方法 / サンプル数: 無作為抽出、件数と抽出方法の根拠を記載
- 実施手続: 申請書の承認欄と権限規程の承認者・承認限度額を照合する
- 結果: 例外の件数と内容(例外の詳細は別表で整理)
- 例外の検討: 被監査部署の説明、追加確認の内容、不備か否かの判断理由
- 結論: 統制は有効に運用されている/発見事項あり(発見事項一覧 C-1 の番号を記載)
- 添付資料: B-3-1 母集団データ、B-3-2 サンプル一覧、B-3-3 照合結果
- 作成者・作成日 / レビュー者・レビュー日: 氏名と日付
サンプル数の決め方や、全件を対象としたデータ分析の手法については「CAATによる全件テストの進め方」で解説しています。
品質を保つレビュー手順
監査調書のレビューは、監査の品質を担保する中心的な仕組みです。形式的な押印で終わらせず、次のような手順で進めます。
レビューの段階
- 作成者のセルフチェック: 提出前に、記載項目の漏れや参照番号の誤りを作成者自身が確認する
- 一次レビュー(監査チームリーダー等): 手続が監査プログラムどおりに実施されているか、証拠が十分か、結論が妥当かを確認する
- 二次レビュー(内部監査部門長等): 重要な発見事項や判断を伴う調書を中心に、報告書の内容と調書の整合性を確認する
レビューのタイミングは、監査の終盤にまとめて行うよりも、往査中や手続の完了ごとに随時行うほうが効果的です。問題が早期に見つかれば、追加の手続や証拠の入手が間に合います。
レビュー者に求められる視点
レビュー者は、誤字や様式の不備を探すことよりも、「この証拠でこの結論を言い切れるか」という観点を重視します。具体的には、母集団の網羅性、サンプルの代表性、例外の評価の妥当性、そして発見事項の重要度の判断が、根拠とともに説明されているかを確認します。判断に迷う論点は、レビュー者と作成者が対話して結論を詰め、その経緯も調書に残します。レビューは作成者の育成の機会でもあるため、差し戻しの理由を具体的に伝えることが、部門全体の調書品質の底上げにつながります。
レビューコメントの管理
レビュー者の指摘は、レビューコメント一覧などで記録し、作成者の対応内容と対応日、レビュー者の確認を残します。コメントへの対応が完了していない状態で監査報告書を確定させないというルールを定めておくと、品質のばらつきを抑えられます。
レビューチェックリスト
レビュー時に確認する主な観点をチェックリストにまとめました。
- 調書の目的が、監査プログラムの手続やリスクと対応しているか
- 実施した手続が、第三者が再現できる程度に具体的に書かれているか
- 母集団の完全性(抜け漏れがないこと)を確認した記録があるか
- サンプルの抽出方法と件数が、部門の基準に沿っているか
- 証拠が添付され、本文との相互参照が付いているか
- 例外の検討経緯と判断理由が記録されているか
- 結論が手続の結果から論理的に導かれているか
- 発見事項が発見事項一覧や報告書に正しく反映されているか
- 作成者・作成日、レビュー者・レビュー日が記載されているか
- 個人情報や機密情報の取扱いが部門のルールに沿っているか
保管と管理のルール
監査調書は、監査の完了後も一定期間保管し、必要なときに参照できる状態にしておく必要があります。内部監査規程やマニュアルで、次の事項を定めておくとよいでしょう。
- 保管期間(社内の文書管理規程や、関連する法令上の保存要件を踏まえて設定する)
- 保管場所とアクセス権限(内部監査部門以外が閲覧する場合の承認手続を含む)
- 監査完了後の調書の確定ルール(確定後の修正を原則禁止し、修正する場合は理由と日付を記録する)
- 電子データの形式と命名規則、版管理の方法
紙とファイルサーバーで調書を管理している場合、版の混在や参照の手間が課題になりがちです。監査管理システムの導入や、ファイルサーバー上のフォルダ構成と命名規則の標準化だけでも、検索性とレビュー効率は改善します。調書の電子化を進める際は、様式やレビューの流れを先に整えてからツールを選ぶと、既存の課題をそのまま持ち込まずに済みます。
調書の確定手順
監査報告書の発行後は、一定の期限内に調書を確定させるルールを設けます。確定前には、レビューコメントがすべて対応済みであること、索引と添付資料に欠落がないこと、報告書の最終版と発見事項一覧の内容が一致していることを確認します。確定後は、編集できない形式での保存や、フォルダのアクセス権限の変更によって、意図しない修正を防ぎます。報告書の作成とあわせた進め方は「内部監査報告書の書き方」も参考にしてください。
よくある不備と改善策
調書のレビューで指摘されやすい不備と、その改善策を整理します。
- 目的がない・あいまい: 監査プログラムの手続番号とリスクを調書の冒頭に必ず記載する様式にする
- 手続の記載が抽象的: 「何を・どれだけ・どのように」を書く欄を様式に設ける
- 証拠の過不足: 証拠の添付基準(どの手続でどの証拠を残すか)を監査マニュアルで定める
- 結論の欠落: 結論欄を空欄のまま提出できない様式にし、セルフチェックで確認する
- レビューの形骸化: レビューコメントの記録を必須にし、コメントゼロの調書が続く場合は二次レビューで確認する
こうした改善は、一度に完璧を目指すよりも、様式とマニュアルの小さな改訂を重ね、部門内で書き方の事例を共有していくほうが定着しやすくなります。
実務での進め方の例
1 件の監査を例に、調書の作成とレビューをどの時点で行うかの流れを示します。部門の体制や監査の規模に合わせて調整してください。
| 時期 | 作成者の作業 | レビュー者の作業 |
|---|---|---|
| 計画段階 | リスク評価表と監査プログラムを作成し、調書の索引体系を決める | 手続がリスクに対応しているか、サンプルの方針が妥当かを確認する |
| 往査前 | 依頼資料一覧を作成し、入手した母集団データの件数・金額を突合する | 母集団の完全性の確認方法を確認する |
| 往査中 | 手続ごとに調書を作成し、例外はその日のうちに記録する | 完了した調書から随時レビューし、追加手続の要否を伝える |
| 往査後 | 発見事項一覧を作成し、被監査部署との協議内容を記録する | 発見事項の重要度と表現、根拠調書との対応を確認する |
| 報告後 | レビューコメントへの対応を完了し、調書を確定・保管する | 未対応のコメントがないことを確認し、確定を承認する |
往査中にレビューを行うためには、レビュー者の予定をあらかじめ確保しておくことが欠かせません。監査計画の段階でレビューの日程を組み込んでおくと、終盤にレビューが集中する事態を避けられます。
よくある質問
調書はどこまで詳しく書けばよいですか
基準は「経験のある第三者が、追加の説明なしに手続と結論を理解できるか」です。重要な判断を伴う手続や発見事項につながった手続は詳しく、定型的で例外のない手続は簡潔に、とリスクに応じて濃淡を付けて構いません。
証拠はすべて調書に添付する必要がありますか
結論の根拠となった証拠は添付するか、保存場所を特定できるように記録します。大量のデータや、原本を別部署が保管している資料は、ファイル名や保存場所、抽出条件を記録し、必要なときに同じものを参照できる状態にしておけば足りる場合もあります。個人情報を含む資料は必要な範囲に限定し、マスキングなどの配慮を検討します。
小規模な部門でもレビューは必要ですか
内部監査人が 1〜2 名の部門では、作成者と別のレビュー者を置くことが難しい場合があります。その場合でも、セルフチェックリストの活用、内部監査部門長による重要調書の確認、外部の専門家による定期的なレビューなどで、客観的な確認の機会を設けることが望まれます。部門の品質評価の進め方は「内部監査の品質評価(QAR)」で解説しています。
まとめ
監査調書は、監査の結論を裏付け、品質を示すための基盤となる文書です。目的と結論の対応、事実・判断・結論の区別、第三者が再現できる具体性、証拠との相互参照を意識して作成することが基本になります。ヒアリング記録では発言と評価を分け、改善前後の記載例のように「何を・どれだけ・どのように」を具体的に書くことで、差し戻しを減らせます。あわせて、往査中からの段階的なレビューとレビューコメントの記録、調書の確定手順を含む保管ルールの明文化によって、担当者に依存しない品質を確保できます。まずは本記事のテンプレートとチェックリストをもとに、自部門の調書様式とレビュー手順を点検してみてください。




