内部監査の形骸化を防ぐには?「経営に資する監査」へ転換する実践ステップ

「毎年同じ部署を同じ手続で監査している」「指摘は書類の不備ばかりで、経営層の関心を引かない」「被監査部門からは、監査対応のための作業が増えるだけだと思われている」。こうした状況に心当たりのある内部監査部門は少なくないのではないでしょうか。内部監査が形式的な点検作業にとどまってしまうと、監査に費やす時間とコストに見合う価値を組織に提供できません。本記事では、内部監査の形骸化のサインと原因を整理したうえで、「経営に資する監査」へ転換するための具体的な考え方と進め方を解説します。

内部監査の形骸化とは

内部監査の形骸化とは、監査の手続や報告は行われているものの、それが組織のリスクの低減や業務の改善、経営の意思決定に結び付いていない状態を指します。監査の件数や報告書の数は揃っていても、「監査をしたこと」自体が目的化してしまっている状態といえます。

グローバル内部監査基準(GIAS)では、内部監査の目的として、組織の価値を創造し、保全し、維持する能力を強化することが掲げられています。具体的には、取締役会や経営者に対して、独立した立場から、リスクに基づく客観的なアシュアランス、助言、洞察、将来を見据えた視点を提供することが求められています。形骸化した内部監査は、この目的を十分に果たしているとはいえません。

また、IIA が公表している「3ラインモデル」では、業務執行部門(第1ライン)、リスク管理やコンプライアンスを担う部門(第2ライン)に対し、内部監査部門は第3ラインとして、独立した客観的なアシュアランスと助言を提供する役割を担うと整理されています。第1ライン・第2ラインの活動を形式的に点検し直すだけでは、第3ラインとしての役割を果たしているとはいえません。組織全体のリスク管理の仕組みが有効に機能しているかという視点を持つことが、形骸化を防ぐ第一歩になります。

形骸化のサイン

自社の内部監査が形骸化しつつあるかどうかは、次のようなサインから判断できます。

領域 形骸化のサイン 目指す姿
監査計画 前年の計画をほぼそのまま踏襲し、全部署を順番に回るだけになっている 経営課題と重要なリスクに基づいて監査テーマと対象を選定している
監査手続 チェックリストに沿った書類の有無の確認が中心になっている リスクに応じて、データ分析や業務の観察、インタビューを組み合わせている
指摘事項 押印漏れや記載不備など、軽微な形式的指摘が大半を占める 根本原因に踏み込み、業務やリスク管理の仕組みの改善を提言している
報告 監査結果の一覧を読み上げるだけで、経営層からの質問がない 全体的な評価と重要な課題を示し、経営層との議論につながっている
フォローアップ 改善報告書の提出を受けて完了としている 改善の実施と定着を証跡で確認している
被監査部門の受け止め 監査は負担でしかないと思われている 監査の結果が業務改善に役立つと認識されている

これらのサインが複数当てはまる場合は、内部監査の進め方を根本から見直す時期に来ているといえるでしょう。

形骸化が起こる原因

形骸化の背景には、内部監査部門だけでは解決できない構造的な要因も含まれています。主な原因として、次のようなものが挙げられます。

目的の不明確さ

内部監査が何のために行われているのか、経営層と内部監査部門の間で共通認識がないと、監査は「規程で定められているから行う」ものになりがちです。上場準備や内部統制報告制度(J-SOX)への対応をきっかけに内部監査部門が設置された企業では、制度対応が一段落した後に目的が曖昧になるケースもあります。

経営層との対話の不足

内部監査部門が経営層や取締役会、監査等委員会と十分に対話できていないと、経営の関心事を監査計画に反映できません。報告経路が担当役員への書面報告のみになっているなど、直接対話する機会が限られていることも一因です。

監査手法の固定化

過去に作成したチェックリストや手続書をそのまま使い続けていると、事業環境の変化やリスクの変化に監査が追随できなくなります。担当者が少なく、手法を見直す余裕がないという事情が背景にあることも少なくありません。

人材と専門性の不足

内部監査部門の要員が限られ、業務知識、IT、データ分析などの専門性が不足していると、形式的な確認以上の監査を行うことが難しくなります。また、内部監査部門が他部門からの異動先として位置付けられ、専門性を蓄積しにくいという課題もあります。

形骸化した監査から経営に資する監査への転換の全体像
形骸化した監査から経営に資する監査への転換の全体像

「経営に資する監査」への転換の視点

形骸化から脱却し、経営に資する監査へ転換するためには、次の四つの視点で監査の進め方を見直すことが有効です。

1. 経営課題とリスクから監査テーマを設定する

中期経営計画や事業戦略、取締役会で議論されている課題を出発点に、その達成を妨げる重要なリスクを洗い出し、監査テーマを設定します。例えば、新規事業の立ち上げ、海外展開、基幹システムの刷新、人材確保など、経営層が関心を持つテーマを監査の対象に加えることで、監査結果が経営の意思決定に役立つものになります。リスク評価に基づく監査計画の立て方は「リスクベースの年間監査計画」で詳しく解説しています。

2. 根本原因に踏み込んだ指摘を行う

書類の不備などの事象だけを指摘しても、同じ問題が繰り返されるだけです。「なぜその問題が起きたのか」を掘り下げ、業務の仕組み、権限の設計、システム、人員配置、教育など、根本原因に対応した改善を提言することで、指摘の価値が高まります。軽微な事項は監査の現場で被監査部門に伝えて是正を促し、報告書では重要な事項に絞るという運用も有効です。

指摘の書き方の違いを、購買業務の例で比較してみます。

観点 形式的な指摘の例 根本原因に踏み込んだ指摘の例
事象 発注書の一部に承認印が押されていなかった 抽出した発注のうち一部で、事前承認を得ずに発注されていた
原因 記載なし(担当者の不注意として扱われる) 急ぎの発注に対応する手続が定められておらず、事後承認が慣行になっていた。システム上も承認前に発注できる設定になっていた
影響 記載なし 権限を超える発注や不要な購買を事前に防げないおそれがある
改善提言 承認印の押印を徹底すること 緊急時の発注手続を定めるとともに、承認前に発注処理ができないようシステム設定を見直すこと

右側のように、事象・原因・影響・改善提言を一続きで示すと、被監査部門にとっても経営層にとっても「何をすれば再発を防げるか」が明確になります。原因を掘り下げる際は、「なぜ」を複数回繰り返して、担当者個人の問題ではなく仕組みの問題にたどり着くまで確認するとよいでしょう。

3. アシュアランスと助言を使い分ける

内部監査には、統制が有効に機能しているかを評価するアシュアランスと、業務改善や新たな取り組みについて助言を行う機能があります。新規事業やシステム導入のプロジェクトに対しては、完了後に評価するだけでなく、計画段階からリスクの観点で助言を行うことで、問題を未然に防ぐことができます。ただし、助言を行う場合も、内部監査部門が業務の意思決定や実行に関与しないよう、独立性と客観性に配慮することが重要です。

4. 経営層が使える報告にする

報告書は、監査で実施したことの記録ではなく、経営層が判断や行動に使うための情報です。全体的な評価、重要な課題とその影響、改善の方向性を冒頭で簡潔に示し、詳細は後段や別紙に回すなど、読み手を意識した構成にします。個別の監査報告に加えて、年に一度など定期的に、監査結果全体から見えてくる組織横断的な課題や、ガバナンス・リスク管理・内部統制の全体的な状況を取締役会に報告することも有効です。複数の監査で共通して見られる問題は、個々の部署の課題ではなく、全社的な仕組みの課題である可能性があります。こうした横断的な視点を示すことが、経営層にとっての内部監査の価値を高めます。報告書の構成や書き方については「内部監査報告書の書き方」も参考にしてください。

転換を進めるステップ

経営に資する監査への転換は、一度にすべてを変えようとすると現場の負担が大きくなります。次のステップで段階的に進めるとよいでしょう。

  1. 現状の把握:過去数年の監査計画、指摘事項、報告内容を振り返り、形骸化のサインがどこに表れているかを把握する
  2. 経営層との対話:取締役会、監査等委員会、経営者に内部監査への期待や関心のあるリスクをヒアリングし、内部監査の目的と役割を改めて合意する
  3. 監査計画の見直し:経営課題とリスク評価に基づいて監査テーマを再設定し、定例的な監査との配分を見直す
  4. 手法と様式の見直し:チェックリスト中心の手続から、リスクに応じた手続へと見直す。指摘事項の重要度区分や報告書の構成も改める
  5. 試行と振り返り:まずは一部の監査で新しい進め方を試し、経営層や被監査部門の反応を踏まえて改善する
  6. 定着と評価:新しい進め方を規程やマニュアルに反映し、成果を測る指標を設定して定期的に振り返る

被監査部門との関係づくり

経営に資する監査への転換には、被監査部門の協力が欠かせません。監査の目的が業務の改善とリスクの低減にあることを丁寧に説明し、監査の過程でも被監査部門の意見を聞きながら改善策を検討することで、「監査される側」から「一緒に改善に取り組む相手」へと関係を変えていくことができます。監査の最後に講評の場を設け、良い取り組みも積極的に評価して伝えることも、信頼関係の構築に役立ちます。

監査の開始時に被監査部門へ伝える内容は、たとえば次のように整理しておくと、監査の目的が伝わりやすくなります。

  • 今回の監査の目的(例:「受注から請求までの業務で、売上の計上漏れや誤りを防ぐ仕組みが機能しているかを確認します」)
  • 監査の範囲と期間、依頼する資料とインタビューの予定
  • 指摘事項は報告前に内容を確認いただき、改善策を一緒に検討すること
  • 良い取り組みが確認できた場合は、報告書でも紹介すること

人材と外部リソースの活用

経営に資する監査を行うには、業務知識、リスク管理、IT、データ分析など、幅広い専門性が求められます。すべてを内部監査部門の要員だけで賄うことは難しいため、計画的な研修や資格取得の支援に加え、社内の専門部署からの一時的な参加(ゲスト監査人)や、外部の専門家とのコソーシングを組み合わせることも有効です。外部の知見を取り入れながら、部門内にノウハウを蓄積していくことを意識するとよいでしょう。

また、会計データや業務データを全件分析するデータ分析の手法を取り入れると、限られた人員でも網羅的にリスクの兆候を把握でき、監査の対象や重点を絞り込みやすくなります。

転換の成果を測る

経営に資する監査への転換が進んでいるかどうかは、監査の件数や指摘の数だけでは判断できません。件数は監査の「量」を示す指標にすぎず、指摘の数が多いことが必ずしも価値の高い監査を意味するわけではないためです。次のように、監査の「質」や「影響」を捉える指標を組み合わせて振り返るとよいでしょう。

観点 指標の例 確認の方法
経営課題との整合 監査テーマのうち、経営課題や重要リスクに対応するものの割合 年間計画とリスク評価結果の対応表
指摘の質 根本原因に対応した改善提言の件数、重要度の高い指摘の割合 指摘事項台帳の分析
改善の実現 期限内に改善が完了した指摘の割合、再発の有無 フォローアップの記録
経営層の評価 取締役会・監査等委員会からの質問や要望の内容 報告の議事録、定期的なヒアリング
被監査部門の評価 監査が業務改善に役立ったかどうかの評価 監査後のアンケート
監査の効率 計画に対する工数の実績、報告までの期間 工数管理の記録

指標は、数値目標の達成そのものを目的にすると、かえって形式的な運用を招くおそれがあります。あくまで監査の進め方を振り返り、改善につなげるための材料として活用することが大切です。

転換でつまずきやすい点と対策

経営に資する監査への転換を始めても、途中で元の進め方に戻ってしまうことがあります。つまずきやすい点と対策を整理します。

つまずきやすい点 起こりやすい原因 対策
経営課題のテーマを設定したが、監査手続が従来と変わらない テーマに応じた監査目的と評価基準を定めないまま往査に入った 監査ごとに「何を確かめるか」を監査目的として明文化し、手続をそこから逆算する
定例監査を減らしたことで、基本的な統制の不備を見逃す 定例監査の縮小にあたり、リスクの低さを確認していない データ分析や自己点検で基本的な統制の状況を把握し、異常があれば監査対象に加える
根本原因を追及しすぎて、被監査部門との関係が悪化する 原因の分析が担当者個人の責任追及に見えている 原因は仕組みの観点で整理し、改善策を被監査部門と一緒に検討する
報告を見直しても、経営層の反応が変わらない 報告の形式だけを変え、経営層が知りたい論点と結び付いていない 事前に経営層の関心事を確認し、報告の冒頭で結論と経営への影響を示す
助言業務を増やした結果、独立性に疑問を持たれる 助言の範囲や役割が明確に定められていない 助言の範囲と内部監査部門が担わない役割を事前に文書で合意する

転換は一度で完成するものではありません。つまずいた点を振り返り、次の監査で修正することを繰り返しながら、少しずつ新しい進め方を定着させていくことが大切です。

よくある質問

Q. 担当者が少なく、経営課題に対応したテーマまで手が回りません

すべての監査を一度に変える必要はありません。年間計画のうち一つか二つのテーマだけでも経営課題に対応したものに置き換え、残りは定例監査の手続を効率化して工数を捻出する方法があります。会計データや業務データの全件分析を取り入れると、定例的な確認にかかる時間を減らしやすくなります。進め方は「CAAT による全件テストの進め方」も参考にしてください。

Q. 経営層が内部監査に関心を示さない場合は、どう働きかければよいですか

まずは経営層が抱えている課題や懸念を聞く機会をつくることから始めます。監査計画の策定前に短時間でもヒアリングを行い、その内容を監査テーマに反映したうえで、結果を報告する流れをつくると、内部監査が経営の関心事に応えるものであることを実感してもらいやすくなります。ヒアリングの進め方は「監査の現場で役立つインタビューの技法」で解説しています。

Q. 指摘事項が改善されないまま、翌年も同じ指摘を繰り返してしまいます

改善報告書の提出だけで完了とせず、改善策が実施され、定着しているかを証跡で確認する仕組みが必要です。期限を過ぎた未改善事項を経営層や監査等委員会に定期的に報告し、改善の責任者を明確にすることも効果的です。フォローアップの具体的な方法は「監査指摘事項のフォローアップ」をご覧ください。

形骸化の自己診断チェックリスト

自社の内部監査の状況を確認するためのチェックリストです。当てはまらない項目が多い領域から、優先的に見直しを検討してください。

目的と経営層との関係

  • 内部監査の目的と役割について、経営層・取締役会と共通認識が形成されているか
  • 取締役会や監査等委員会に、内部監査部門の長が直接報告する機会があるか
  • 監査計画の策定時に、経営層から関心のあるリスクや期待を聴取しているか

監査計画と手続

  • 監査テーマが経営課題とリスク評価に基づいて選定されているか
  • 前年と同じ計画の踏襲ではなく、リスクの変化を踏まえて毎年見直しているか
  • リスクに応じて、データ分析、業務の観察、インタビューなどの手続を使い分けているか

指摘と報告

  • 指摘事項が根本原因に踏み込み、仕組みの改善につながる提言になっているか
  • 報告書の冒頭で、全体的な評価と重要な課題を簡潔に示しているか
  • 報告の場で経営層との議論が生まれ、意思決定や対応につながっているか

フォローアップと改善

  • 改善の実施と定着を、証跡に基づいて確認しているか
  • 被監査部門からのフィードバックを収集し、監査の進め方の改善に生かしているか
  • 監査の成果を測る指標を設定し、定期的に振り返っているか

まとめ

内部監査の形骸化は、目的の不明確さ、経営層との対話不足、監査手法の固定化、人材と専門性の不足といった要因が重なって生じます。経営に資する監査へ転換するためには、経営課題とリスクから監査テーマを設定し、根本原因に踏み込んだ指摘を行い、経営層が判断や行動に使える報告を行うことが重要です。指摘は事象・原因・影響・改善提言を一続きで示し、転換の途中でつまずいた点は振り返りながら修正していくことで、新しい進め方が定着していきます。まずは自己診断チェックリストで現状を把握し、経営層との対話を起点に、できるところから段階的に見直しを進めてみてはいかがでしょうか。

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