「内部監査部門の成果をどう示せばよいか」は、多くの監査部門長が抱える悩みです。監査の実施件数や指摘件数を報告しても、経営者や取締役会からは「それで会社は良くなったのか」と問われ、かといって監査の効果を金額で示すことは容易ではありません。一方で、グローバル内部監査基準(GIAS)では、内部監査部門のパフォーマンスを測定する指標を設定し、その達成状況を評価することが求められています。本記事では、内部監査部門長や企画担当者に向けて、KPI(重要業績評価指標)を「活動」「成果」「品質」の3つに分けて設計する考え方と指標例、目標値の決め方、報告と運用のポイントを整理します。
内部監査部門にKPIが必要な理由
内部監査部門は、営業部門のように売上や利益で成果を測ることができません。そのため、何を達成すべきかがあいまいなまま、「計画どおり監査を終えること」自体が目的化してしまうことがあります。KPIを設定する意義は、主に次の3点にあります。
- 説明責任を果たす:取締役会、監査役等、経営者に対し、内部監査部門が期待される役割を果たしているかを客観的な指標で示す
- 改善の方向を明確にする:どの領域に課題があるかを把握し、人員配置、研修、手法の見直しといった改善につなげる
- 資源の妥当性を議論する:監査の対象範囲やリスクのカバー状況を示すことで、必要な人員・予算について建設的に議論できるようにする
GIAS では、内部監査部門長が内部監査部門の戦略を策定し、パフォーマンスの目標と測定方法を定め、取締役会に報告することが求められています。また、品質のアシュアランスと改善のプログラムの一環として、継続的なモニタリングを行うことも求められています。KPI はこうした要求に応える具体的な手段の一つといえます。
KPIを「活動・成果・品質」の3区分で考える
内部監査部門のKPIは、何を測るかによって大きく3つに分けて考えると整理しやすくなります。
| 区分 | 測る内容 | 主な問い | 特徴 |
|---|---|---|---|
| 活動(インプット・プロセス) | 監査業務をどれだけ・どのように実施したか | 計画どおり進んでいるか、効率的か | データが集めやすく、短期的な管理に向く。ただし「量」だけでは価値を示せない |
| 成果(アウトカム) | 監査によって組織に何が起きたか | リスクは下がったか、改善は定着したか | 経営者の関心に直結する。一方で、監査の効果だけを切り出して測るのが難しい |
| 品質 | 監査が基準や期待に沿った水準で行われたか | 監査の結論は信頼できるか、関係者は満足しているか | 内部監査部門の信頼性の基盤。自己評価や外部評価と組み合わせて測る |
活動指標だけでは「忙しく働いたこと」しか示せず、成果指標だけでは内部監査部門が管理できない要因に左右されます。品質指標は、活動と成果の前提となる「監査そのものの信頼性」を担保します。3区分をバランスよく組み合わせることが、KPI設計の基本です。
区分別のKPI指標例
ここでは、区分ごとに代表的な指標の例を挙げます。すべてを採用する必要はなく、自社の内部監査部門の戦略や成熟度に合わせて選択します。
活動(インプット・プロセス)の指標例
- 年間監査計画の実施率(計画した監査のうち、期中に完了した割合)
- 監査1件あたりの平均所要日数、または計画工数に対する実績工数の比率
- 往査終了から監査報告書発行までの日数
- 高リスクと評価した監査対象のカバー率(一定期間内に監査を実施した割合)
- 内部監査人1人あたりの研修受講時間、保有資格の数
成果(アウトカム)の指標例
- 指摘事項の期限内改善率(改善期限までに是正が完了した割合)
- 期限を超過している指摘事項の件数と、その超過期間
- 重要な指摘事項の再発件数(過去に指摘した事項と同様の問題が再び識別された件数)
- 経営者や取締役会からの依頼に基づくアドバイザリー業務の件数
- 監査の結果として見直された規程・業務プロセスの数
品質の指標例
- 監査対象部門へのアンケートによる満足度(監査の有用性、コミュニケーションの適切さなど)
- 内部の品質評価(調書レビュー)で識別された不備の件数
- 外部品質評価(QAR)における基準への適合状況
- 監査報告書に対する事実誤認の指摘件数
指標を選ぶときの注意点
指標を選ぶ際は、「内部監査部門の行動によって改善できるか」「データを継続的に取得できるか」「数値の変化が何を意味するか説明できるか」の3点を確認します。例えば、全社の不正件数や損失額は重要な情報ですが、内部監査部門の活動だけで左右できるものではないため、KPIとしてではなく参考情報として報告するほうが適切な場合があります。また、指摘件数のように、増えても減っても良し悪しを一概に判断できない指標は、目標値を設けずに推移を示す程度にとどめるのが無難です。
成果指標のうち、指摘事項の改善状況に関する指標は、比較的データが集めやすく、経営者にとっても分かりやすい指標です。指摘事項のフォローアップ管理の仕組みについては「指摘事項のフォローアップ管理」で詳しく解説しています。

目標値の決め方
KPIを選んだら、それぞれに目標値を設定します。目標値の決め方には、いくつかの考え方があります。
現状値を起点にする
初めてKPIを導入する場合は、まず1年間は目標値を設けずに実績を測定し、その結果を踏まえて翌年度の目標値を設定する方法が現実的です。根拠のない目標値を設定すると、達成・未達成の評価自体に意味がなくなってしまいます。
基準や規程から導く
監査報告書の発行期限や指摘事項の改善期限など、内部監査規程やマニュアルですでに定めているルールがある場合は、それを目標値の根拠とします。例えば「往査終了後○営業日以内に報告書を発行する」という規程があれば、その遵守率をKPIにできます。
戦略目標と結びつける
内部監査部門の中期計画で「データ分析の活用を拡大する」「アドバイザリー業務を強化する」といった戦略目標を掲げている場合は、その進捗を測る指標と目標値を設定します。KPIが戦略とつながっていることで、単なる実績報告ではなく、部門の方向性を示すツールになります。
なお、目標値は高すぎても低すぎても機能しません。達成不可能な目標は現場の意欲を下げ、容易な目標は改善につながりません。取締役会や監査役等と目標値について事前に合意しておくことが望まれます。
目標値を設定するときの確認事項
目標値を決める際は、次の点を確認しておくと、期中や期末の評価でぶれが生じにくくなります。
- 目標値の根拠(前年度実績、規程上の期限、戦略目標など)を設計シートに記載しているか
- 期中に監査計画を変更した場合に、目標値を見直すかどうかのルールを決めているか
- 単年度の目標だけでなく、中期的に目指す水準を示しているか
- 一つの指標を改善しようとすると別の指標が悪化する関係(例:報告書の発行日数と品質)がないかを確認したか
- 目標値の達成状況を、誰がいつ集計し、誰が確認するかを決めているか
KPI設計シート(テンプレート)
KPIを設計する際は、指標ごとに次の項目を整理しておくと、測定方法のぶれや解釈の違いを防げます。自社の状況に合わせて項目を追加・修正してご活用ください。
| 項目 | 記載内容 | 記載例 |
|---|---|---|
| 指標名 | 指標の名称 | 指摘事項の期限内改善率 |
| 区分 | 活動・成果・品質のいずれか | 成果 |
| 目的 | なぜこの指標を測るのか | 監査の指摘が実際の改善につながっているかを確認する |
| 定義・算式 | 分子・分母を明確にする | 当期に改善期限が到来した指摘事項のうち、期限内に改善完了が確認された件数 ÷ 当期に改善期限が到来した指摘事項の件数 |
| データソース | どこからデータを取得するか | 指摘事項管理台帳 |
| 測定頻度 | 月次・四半期・年次など | 四半期 |
| 目標値 | 達成すべき水準と、その根拠 | 前年度実績を踏まえて設定 |
| 責任者 | 指標の管理責任者 | 内部監査部門 企画担当 |
| 報告先 | 誰に報告するか | 取締役会、監査役等、経営者 |
特に重要なのが「定義・算式」です。例えば「年間監査計画の実施率」でも、期中に計画を変更した場合に分母を当初計画とするか変更後の計画とするかで数値が変わります。定義をあいまいにしたまま運用すると、年度ごとの比較ができなくなります。
品質指標として監査対象部門へのアンケートを使う場合は、質問項目と評価尺度を固定し、回答の依頼時期(監査報告書の発行後○営業日以内など)と回収率もあわせて記録します。質問の文言や尺度を年度ごとに変えると、数値の推移を比較できなくなります。また、満足度が高いことは必ずしも監査の品質が高いことを意味しないため、調書レビューで識別された不備の件数など、内部の品質評価の結果と組み合わせて評価します。品質評価の仕組みについては「内部監査の品質評価(QAR)」で解説しています。
データの集め方と報告の方法
KPIの測定にはデータが必要です。監査計画、工数、指摘事項、アンケート結果などを Excel で個別に管理していると、KPIの集計そのものが大きな負担になります。
データの一元管理
監査計画の進捗、工数の実績、指摘事項の改善状況などを一つの台帳やシステムで管理すると、KPIを自動的に集計しやすくなります。監査管理システムを導入していない場合でも、共通の台帳の様式を定め、項目や入力ルールを統一しておくだけで集計の手間は大きく減ります。監査情報の一元管理から始める DX の進め方は「内部監査DXの4ステップ」も参考にしてください。
報告の方法
取締役会や監査役等への報告では、すべての指標を並べるのではなく、重要な指標を絞り込み、目標値との比較と前期からの推移を示すのが効果的です。数値だけでなく、目標を下回った指標についてはその原因と対応策をあわせて説明します。BI ツールを使ってダッシュボード化すれば、四半期ごとの報告資料の作成負担を軽減できるだけでなく、経営者がいつでも状況を確認できるようになります。
報告資料の構成例
取締役会や監査役等への定期報告では、次のような構成にすると、数値と説明を短時間で伝えやすくなります。
| 構成要素 | 記載内容 | 留意点 |
|---|---|---|
| サマリー | 主要指標の達成状況を一覧で示す | 目標未達や悪化傾向の指標を先頭に置く |
| 指標ごとの推移 | 直近数期の実績と目標値の比較 | 定義や算式を変更した場合は注記する |
| 未達指標の分析 | 原因、影響、対応策と期限 | 内部監査部門で対応できない要因は切り分けて説明する |
| 参考情報 | 期限超過の指摘事項の内訳、リスクのカバー状況など | 数値だけでなく、重要な個別案件を補足する |
| 今後の予定 | 次の報告期間の重点と、指標の見直し予定 | 取締役会等に判断を求める事項を明示する |
ダッシュボードの設計については「BIツールによるKRIダッシュボード設計」も参考にしてください。
KPI導入の進め方
これからKPIを導入する場合、あるいは既存の指標を見直す場合は、次のような手順で進めると関係者の理解を得やすくなります。
- 期待の把握:取締役会、監査役等、経営者、主要な監査対象部門に、内部監査部門に何を期待しているかをヒアリングする。期待と測定する指標がずれていると、KPIを報告しても評価につながらない
- 現状の棚卸し:現在報告している数値や、部門内で管理しているデータを洗い出し、3区分のどこに当たるかを整理する。多くの場合、活動指標に偏っていることが分かる
- 指標案の作成:期待と戦略目標を踏まえ、区分ごとに候補となる指標を選び、設計シートで定義・算式・データソースを整理する
- 試行測定:まず1年間、あるいは数四半期、実際にデータを集めて測定してみる。データが取れない、定義が解釈によって変わるといった問題はこの段階で見つかることが多い
- 目標値の設定と合意:試行測定の結果を踏まえて目標値を設定し、取締役会や監査役等に説明して合意を得る
- 定期報告と見直し:四半期または半期ごとに報告し、年度計画の策定時に指標と目標値を見直す
期待の把握の段階では、「内部監査部門に最も期待することは何か」「現在の報告で分かりにくい点は何か」といった問いを用意しておくと、ヒアリングの内容を指標に落とし込みやすくなります。特に監査役等は、内部監査部門と連携して監査を行う立場から、指摘事項の改善状況や重要なリスクのカバー状況に関心を持つことが多いため、その視点を指標に反映させるとよいでしょう。
KPIが形骸化する原因と対策
KPIを導入しても、数年経つと「毎年同じ数値を報告するだけ」になってしまうことがあります。よくある原因と対策を整理します。
- 活動指標に偏っている:実施件数や工数だけを報告していると、成果や品質が見えません。3区分それぞれから少なくとも1つは指標を選ぶようにします
- 数値目標が目的化している:指摘件数を目標にすると、重要性の低い指摘が増えるおそれがあります。件数そのものを目標にするのではなく、改善率や再発件数など質を反映する指標を選びます
- 指標が多すぎる:指標が多いと集計の負担が増え、重要な指標が埋もれます。報告用の主要指標は数個程度に絞り、それ以外は部門内の管理用とするなど階層を分けます
- 見直しが行われない:内部監査部門の戦略や組織の状況が変われば、測るべき指標も変わります。年度計画の策定時に、KPIの妥当性を見直す機会を設けます
KPI運用のチェックリスト
- 活動・成果・品質の3区分それぞれに指標が設定されているか
- 各指標の定義・算式・データソースが文書化されているか
- 目標値の根拠が説明でき、取締役会や監査役等と合意しているか
- 目標を下回った指標について、原因と対応策を報告しているか
- KPIの妥当性を年に1回以上見直しているか
- KPIの結果が、人員配置や研修計画、監査手法の見直しに活用されているか
部門の規模・成熟度別の指標の選び方
KPIの数や種類は、内部監査部門の規模や成熟度によって適切な水準が異なります。考え方の目安を整理します。
| 部門の状況 | 重視する指標の例 | 留意点 |
|---|---|---|
| 立ち上げ期・少人数の部門 | 年間監査計画の実施率、指摘事項の期限内改善率 | 指標は数個に絞り、集計の手間をかけない |
| 運用が安定してきた部門 | 高リスク領域のカバー率、報告書発行までの日数、監査対象部門の満足度 | 3区分のバランスを意識し、推移で改善を示す |
| 高度化を進める部門 | データ分析を活用した監査の割合、アドバイザリー業務の件数、重要な指摘事項の再発件数 | 戦略目標と指標の対応を明確にし、中期計画と連動させる |
たとえば内部監査人が1〜2名の部門では、詳細な工数管理を行うこと自体が負担になりがちです。その場合は、年間監査計画の実施率と指摘事項の改善状況の2つから始め、運用が定着してから品質指標を加えるといった段階的な導入が現実的です。IPO準備などで部門を新設する場合の考え方は「IPO準備における内部監査部門の立ち上げ」も参考にしてください。
よくある質問
監査の効果を金額で示すべきですか
改善によって削減できたコストや回収できた金額など、金額で示せる効果がある場合は参考情報として報告するのが有効です。ただし、多くの監査の効果はリスクの低減や統制の強化であり、金額に換算すると前提の置き方によって数値が大きく変わります。金額換算をKPIの中心にするよりも、改善の定着状況や重要なリスクのカバー状況を示すほうが、継続的に説明しやすいでしょう。
KPIを個人の評価に使ってもよいですか
部門のKPIをそのまま個人の評価に結び付けると、指摘件数の水増しや、報告を急ぐことによる品質の低下を招くおそれがあります。個人の評価に用いる場合は、品質に関する観点や育成の観点を組み合わせ、数値だけで評価しない仕組みにすることが望まれます。
目標を達成できなかった場合はどう報告すればよいですか
未達の事実を率直に示したうえで、原因が内部監査部門の要因か、計画変更や外部要因によるものかを切り分けて説明します。必要な人員や予算についての議論につなげる材料にもなるため、未達を隠さずに報告することが、取締役会や監査役等との信頼関係の構築につながります。
まとめ
内部監査部門のKPIは、部門の説明責任を果たし、改善の方向を明確にするための道具です。活動・成果・品質の3区分でバランスよく指標を選び、定義と算式を明確にしたうえで、現状値や規程、戦略目標を根拠に目標値を設定することが基本になります。指標の数や種類は部門の規模や成熟度に合わせて段階的に増やし、個人の評価に直結させない配慮も必要です。データを一元管理して集計の負担を減らし、取締役会や監査役等へはサマリー・推移・未達の分析を軸にした報告資料で説明することで、KPIは単なる実績報告から部門の価値を示すツールに変わります。まずは設計シートを使って、現在報告している指標を棚卸しするところから始めてみてください。




